e-TeachingAward Good Practice集
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大学院生を指導員とし課題の個別指導を実施 この授業は、レポートや卒業論文など学術的な文章を書くために必要な技能「文章作成力」を身につけることを目標としている。「英語コミュニケーション力」「数学的思考力」と並ぶWASEDA式アカデミックリテラシー「1万人シリーズ」として、早稲田大学の基盤教育充実を目指して設置されている科目のひとつだ。オープン教育センターに設置されたこの授業は、初年次生の履修が推奨されていることもあり、2012年度の履修者は3サイクル合計で4500名を越えている(全8回の授業で、春学期に2サイクル、秋学期に1サイクル実施)。多いときは1サイクルで1600名もの履修者に同一の授業内容を提供するために、教場を一切使わず、Course N@viで授業コンテンツを配信するフルオンデマンド方式を採用している点が大きな特徴だ。 履修者は毎週1回分のコンテンツを視聴した後、その学習内容を基に400字または600字の文章を課題として作成し、提出する。提出された課題の指導に当たっているのは、大学院生で構成される指導員だ。指導員は提出されたWordファイルに吹き出しでコメントを入力し、評価点を付けて履修者へ個別に返送する。課題の提出、返却はすべてCourse N@vi上で行われる。 大学院生が指導員になるためには、全研究科の大学院生を対象として行っている「学術的文章の作成とその指導」という指導員養成クラスを履修し、優秀な成績を修めることが条件となる。「文章や教育の専門家ではない院生を集めて文章指導に当たらせるので、まず本人が学術的文章をしっかり書けるようになることが求められます。指導員は履修者の成績付けにまで関わるので、文章力が他人の文章を診断するに至らないという人は合格させていません」。(佐渡島准教授)育成・研修・監督システムで指導員の指導水準を担保する 審査に合格した院生は教育補助として採用され、さらに研修佐渡島准教授、太田助教が担当している「学術的文章の作成」は、基盤教育科目として設置され、大学が初年次生に推奨している授業だ。千人規模の履修者に同一の授業コンテンツを提供するためフルオンデマンド方式を採用しながらも、大学院生の指導員による個別指導で双方向コミュニケーションを実現しているという。を行った上で実務に就く。各指導員が履修者20~50名を担当し、8回の授業を通じて同じ履修者の指導を行う。さらに、指導員6~10名でひとつのグループを作り、グループの指導員たちをベテラン指導員や助手である「シニア指導員」というまとめ役が束ねるという構造になっている。授業期間中は毎週1回評価ミーティングを開き、シニア指導員を中心としてそのグループの指導員が集まり、その週の評価観点や配点を指導員間で共有する。その際、連絡事項の伝達、文章の検討、指導員からの質問や相談事項の協議などを行っている。これは、指導員によって評価のばらつきが出ることを防ぎ、指導員の文章指導力を向上させるためである。 シニア指導員たちは、評価ミーティングとは別に毎週1回シニアミーティングに出席し、担当教員との情報共有を行う。さらに、教員は、経験の浅い指導員を中心として、文章指導のフィードバックを点検したり、各学期の終わりに各指導員と8分間ずつの個別面談を行ったりという仕組みもある。このように、授業担当教員が履修者を直接指導することがない代わりに、指導員の育成、研修、監督をきめ細かくシステム化することで、指導の質を担保することに多大な配慮がなされている。個別指導の経験により院生自身の文章力も向上 授業に関する質問については、指導員1名が受け持つクラスごとにBBSが開設されている。質問への回答は基本的に担当指導員が行うが、対応しきれない場合には各指導員がシニア指導員にメールで相談をする。シニア指導員でも解決できない問題は、さらに教員に相談をして対応を仰ぐ。「各BBSの質問はすべて教員もチェックしており、その応答を見守っています。指導員の回答に補足すべき点があれば、教員が直接フォローすることもあります」(太田助教)。 直接顔を合わせることのないフルオンデマンドの授業では、履修者のモチベーション維持が問題となりがちだ。この授業では、指導員が履修者一人ひとりに個別指導を行う仕組みを整えることで、むしろ通常の授業よりもきめ細かな指導が実践されている。履修した学生へのアンケートからは、「こんなに丁寧な指導をしてもらえるとフルオンデマンドに個別指導を加え、1600名の履修者に同一授業を提供20佐渡島紗織留学センター准教授

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