e-TeachingAward Good Practice集
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教員が一方的に情報を与えるという今日の大学教育のあり方に疑問を持ち、「学習者主体」の学びを目指している細川教授。今回は、その教育観に基づく授業を、Course N@viのBBSを活用したフルオンデマンドで行っている事例を紹介する。メンターを活用したBBSで、学習者主体の学びを深める対話や議論を通して、「自分のテーマ」を追求する 細川教授の考える「学習者主体」の授業とは、教員から知識を与えられるのではなく、学生自らがテーマを見つけて作り上げていくというものだ。このコンセプトで行われている授業の一つが、オープン科目の「書くこと・考えること」という日本語・日本語教育研究講座である。 参加する学生たちが自らテーマを見つけてレポートを書くというこの授業では、教員はあくまで活動の枠組みを伝えるのみという点が大きな特徴だ。学生たちは、他の学生との議論や対話を通して、自分自身でテーマを決め、それについての考えを深め、レポートを完成させる。 細川教授は、5年ほど前からこの授業を実験的にフルオンデマンドでも行っている。まず、活動の内容について教員が説明した15~20分程度の講義を、ビデオコンテンツとして7,8回分用意しておく。学生たちは、順次公開されるこの講義ビデオを各自で視聴した後、各回ごとに用意されたBBSに自分の考えを投稿していく。「1週間では考える期間が短すぎるので、あえて講義は隔週で用意しています。2週間の間にじっくり考えて書き込んでもらうためです。」 この流れの中で、学生たちは自分で決めたテーマについてのレポートを、順次改訂を重ねながら合計5回提出する。Course N@viのレポート機能を使って提出させるが、相互にレポートを読むことができるよう他の学生からも見える設定にしており、その都度BBSでコメントをつけ合う。自分のレポートに寄せられたコメントやアドバイス、さらに他人のレポートについての意見交換やそこから広がった議論を踏まえて、各自がさらなる考察を加えて徐々にレポートを仕上げ、最後は学生同士で相互評価を行う。BBSの運営は、大学院生のメンターに任せる この授業において重要な要素となっているのは、学生同士でのインターアクションだ。フルオンデマンドの授業ではそれをBBSで行うことになる。当初は細川教授自身もこのBBSに参加していたが、今はチェックするだけで、自身は一切書き込まないという方針を貫いている。「私が参加すると、学生は私の意見に沿わせようとする傾向があります。自分で自由に考えてほしいのに、私の中から正解を探し出そうとしてしまう。それでは学習者主体というこの授業のコンセプトに反するので、教員は参加しない方がよいという結論に至りました」。その結果、講義コンテンツ以外で教員自らが発信するのは、Course N@viの「お知らせ機能」を使った事務的な連絡のみとしている。 それを補う手段として採用しているのが、TAがメンターとしてBBSに参加するという手法だ。メンターとなる日本語教育研究科の大学院生には、「学習者主体とは何か」という理論を学んだ実績に加え、さらに教場で行っているこの授業の活動に半年参加した経験を持つ人に担当してもらっている。 違う人間から異なる視点が出てくる方が効果的という理由から、現在は2名のメンターが同時に参加している。「教員である私よりも、学生により近い立場のメンターからのアドバイスの方が、学生の中にはすんなりと入っていくようです。」 メンターの役割は、常にBBSの流れをチェックしながら、議論の活性化を促していくことだ。単に「○○さんの書いた考えについて、どう思うか?」などと問いかけるだけでなく、書かれている内容にあえて批判的な投げかけをするのも有効だという。賛同するとそれで終わってしまうが、あえて批判的に書くことで、反論という形で議論を呼び起こすことができるというわけだ。さらに、メンター自身が感じた素朴な疑問を質問という形で尋ねてみると、書いた本人が自覚していなかった視点に気づきを与えたり、他の人から意見が寄せられたりして、議論が広がっていく効果があるという。自分とテーマとの関連性をじっくり考えさせる この授業は、文章を書くためのスキルを教えるものではない。それ以前に重要でかつ困難なのは自分のテーマを見つけることだと、細川教授は考えている。 「初等教育では自己完結的に自分の思いを書くように指導されます。そこには、自分の問題を他者に語りかけるという視点がありません。ところが、大学の高等教育になると、一転して客観的に自分の外にある情報を集めてくることを求められます。その結果、何かのテーマを調べて書いたとしても、なぜ自分がそれを書くのかという振り返りがないままであるため、自分の生涯教育としての筋道が見えないのです。」22細川英雄大学院日本語教育研究科教授

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