e-TeachingAward Good Practice集
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日本語の発音学習への留学生のニーズは大きい 日本語音声教育に関する研究を続けてきた戸田教授は、2000年度に早稲田に着任後、日本語教育研究科の設立準備に携わると同時に、日本語教育研究センターにおいて発音に特化した授業を立ち上げた。授業では、定員オーバーで急遽クラスを2つに分けなくてはならないほどの留学生が押し寄せたという。「自分の日本語の発音に問題意識を持っている留学生がいかに多いのかということを実感しました」。 留学生の多くは、日本語の発音指導を十分に受けないまま来日する。そのため、発音が悪いために自分の日本語が通じない、誤解を招いてしまったなど、コミュニケーションに支障をきたした経験を持つ留学生も少なくない。発音がたどたどしいために幼稚な印象を与えることにコンプレックスを持つ、長年学んできたはずの日本語が通じないことにフラストレーションを感じるなど、悩みを抱える留学生も多い。まわりの日本人から発音がおかしいと指摘されることはあっても、それを正しく指導してもらえる機会はほとんどないのが現状だ。 「その理由のひとつは、発音を専門的に教えられる教員が少ないことです。日本人で日本語ができるからといっても、専門的な知識がないと効果的な発音の指導はできません。日本語の発音をきちんと学ぶ機会が欲しい、そんな留学生のニーズに応えたいという思いがありました」。目に見えない「発音」の特徴を映像コンテンツで多角的に学ぶ そこで注目したのが、オンデマンドコンテンツの導入だ。アクセント、イントネーション、リズムなど項目ごとに、日本語の発音の特徴を教員が分かりやすく説明する動画と、それを補足するスライドなどを収録。説明には日本語と英語の字幕も表示できるようにした。画面上には「発音練習ボタン」を設け、クリックするとモデル音声を聞くことができる。これらの工夫により、学習者は発音上の特性を理論的に理解すると同時に、その場で発音練習も行えるようになっている。早稲田大学では現在3000名以上の留学生を受け入れている。彼らの日本語の発音上達への要望に応えるため、戸田教授はオンデマンドを活用した授業を実施している。映像を一方的に見せるだけでなく、音声ファイルによる発音指導やBBSを組み込むことで、学習成果を挙げているという。 「発音は目に見えないものなので、教育上とても教えにくい、学びにくいという特徴があります。その点、映像と音声やイラスト、アニメーションなどを組み合わせて多角的なアプローチをすることで、理解しやすくなります」。 対面の授業での発音指導は、ひとりの教員が一度に多人数を教えるには限界があり、教員や教室の数が不足する。その点オンデマンドなら、学習者がどれだけ増えようと対応が可能となる。今後のさらなる留学生の増加を考慮すると、教員・教室不足の解消に大きな効果がありそうだ。 さらに、対面授業では、授業時間内に一人ひとりの発音練習をする時間はそれほど多く取れない。しかし、オンデマンドなら各自のペースでできるため、自分が苦手な箇所を集中して何度でも繰り返して練習することが可能になる。 補助コンテンツとして英語や中国語、韓国語など母語別に特化した発音レッスン用コンテンツも用意している。母語によって発音の癖や難しい点が異なるため、そこに焦点を絞った練習ができるようにしたものだ。各母語話者のみが選んで利用すればよいため、効率的にきめ細かな対応ができるのもメリットと言えるだろう。前半の対面授業で自己学習法を詳しく解説 戸田教授は、このようなコンテンツを複数作成し、それを適宜予習や復習に利用させながら授業に取り入れてきた。その経験を基に、2012年度秋学期から開始した「なめらか!発音3-4」という授業では、15回のうち対面で行うのは初回5回のみとし、残りの10回分はオンデマンドのみというカリキュラムを導入した。 この授業では、オンデマンド用コンテンツを利用した学習方法を、前半の対面授業の中で共に実践しながら丁寧に教える。その上で6回目からは一切教室に集まることなく、各自がCourse N@viにアクセスしてコンテンツを再生し、講義を視聴しながら学習する。講義コンテンツ以外に、シャドーイング練習用コンテンツも用意しており、これを利用してシャドーイング(聞こえてくる音声に重ねるようにして発音する)練習を実践することも課題としている。 「練習時間を増やすには授業時間外にも学習することが望ましいのですが、学生は専門分野の勉強もあり忙しいので、まとまったオンデマンド+多角的支援で日本語発音授業の学習効果を向上04戸田貴子大学院日本語教育研究科教授

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